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前橋地方裁判所 昭和50年(ワ)56号 判決

原告

森澤幾代

ほか二名

被告

高城正義

ほか二名

主文

被告らは各自原告森澤幾代に対し金六五九万六、八三一円、原告森澤正一に対し金三二三万三、一一二円、原告森澤葉子に対し金三二三万三、一一二円およびこれらに対する昭和五〇年四月一一日(ただし被告高城正義については昭和五〇年一一月一二日)から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は一〇分しその三を原告らの、その余を被告らの負担とする。

本判決は主文第一項に限り、原告らにおいて金二〇〇万円の担保を供するときは仮りに執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告森澤幾代に対し金一、〇八二万七、〇四三円、原告森澤正一に対し金三七三万三、一一二円、原告森澤葉子に対し金三七三万三、一一二円およびこれらに対する本訴状送達の日の翌日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  (原告らの身分関係)

原告森澤幾代(以下、原告幾代という。)は、亡森澤直良(同じく亡直良という。)の妻であり、原告森澤正一(同じく原告正一という。)は長男、原告森澤葉子(同じく原告葉子という。)は長女だつた者である。

2  (事故の発生および原因)

(一) 昭和四九年四月一〇日午後九時五〇分ころ、亡直良は軽乗用自動車(八群と二一四五)に原告幾代を助手席に同乗させて、新田郡笠懸村大字鹿九六六番地先の国道五〇号線を、桐生方面より前橋方面へ進行中、対向してきた被告高城正義運転の普通貨物自動車(埼一一あ三〇九三)に衝突された。

(二) 右事故の原因は、被告高城正義が相当程度の高速で進行していたため、折から事故現場のカーブを曲り切れず、反対車線にはみ出し進行した過失により、対向して自己の車線内を進行してきた亡直良運転の車両を避けることが出来ず、発生したものである。

3  (傷害の部位、態様)

右事故により、亡直良は頭部打撲、両側気肺等の重傷を負い、翌一一日午前〇時二五分ころ死亡し、又原告幾代も腎臓破裂、腸間膜損傷、全身打撲、顔面切創等の負傷を負い、右四月一〇日より同年六月二六日まで桐生市の高木病院に入院し、以降も同病院に通院中である。

4  (被告らの責任)

被告高城正義は直接の運転者であり、また被告大友運送株式会社は、前記加害車両の保有者であり、これを自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法第三条により、さらに被告大友興業株式会社は右高城正義の勤務先でありその業務中に生じた事故であるから民法第七一五条により、それぞれ連帯して次項記載の原告らの損害を賠償しなければならない。

5  (損害)

(一) 亡直良の葬儀費用 金三〇万円

原告幾代は、亡直良の葬儀費用として多額の出捐を余儀なくされたが、この内金三〇万円を相当因果関係を有する損害として請求する。

(二) 亡直良の逸失利益 金一、一二九万九、三三五円

亡直良は、死亡時満四一歳一〇月の健康な男子として、前橋市天川大島町所在の日東ダンボール株式会社に勤務し、昭和四八年四月より昭和四九年三月までの間の実績として年間給与(賞与を含む。)金一四一万七、三七八円を得ていた。

よつて就労可能年数が二五年であり、その場合の新ホフマン係数(一五・九四四)を乗じ、かつ生計費控除を概算にて二分の一除した場合、亡直良の将来の得べかりし利益は金一、一二九万九、三三五円となる。

原告ら三名は亡直良の右逸失利益額を法定相続分に従いそれぞれ各金三七六万六、四四五円宛相続し、各同額の損害を受けた。

(三) 亡直良死亡による慰藉料 金一、〇〇〇万円

原告ら三名は、一家の支柱である亡直良を失い、その精神的苦痛は甚大であり、それぞれ左の金員をもつて慰藉されるべきである。

原告幾代 金四〇〇万円

同正一、同葉子 各金三〇〇万円

(四) 原告幾代固有の損害

(1) 原告幾代は前記の負傷により、前記高木病院へ昭和四九年四月一〇日から同年六月二六日まで計七八日間入院し、以降現在に至るまで大概週二回以上の通院を必要としている。

その症状はほぼ固定し、脳波異常と右腎臓摘出による身体異常により、七級以上の後遺症となつている。

このため、次の如き損害を受けた。

(2) 入通院に対する慰藉料 金一二〇万円

原告幾代の入院は重傷患者としてであり、又通院の頻度ならびに期間を考慮すると、この慰藉料は金一二〇万円をもつて相当とすべきである。

(3) 入通院期間中の逸失利益 金二五万一、六三二円

原告幾代は本件事故前、前橋市西片貝町所在の林兼食品工業株式会社前橋工場に勤務していたが、月平均金三万一、四五四円の収入を得ていたが、症状が固定するまでの昭和四九年一二月までの八ケ月間、稼働することが出来ず計金二五万一、六三二円の得べかりし収入を得られず、右同額の損害を受けた。

(4) 入院中の付添看護費 金一五万六、〇〇〇円

原告幾代は前記入院の七八日間、付添看護を必要とし、一日当り金二、〇〇〇円、計一五万六、〇〇〇円の損害を受けた。

(5) 入院中雑費 金三万九、〇〇〇円

入院中の雑費は一日当り金五〇〇円を相当とし、計金三万九、〇〇〇円の出捐を要した。

(6) 後遺症による慰藉料 金五〇〇万円

原告幾代の後遺症は極めて重傷であつて、前記脳波異常等による将来の不安は極めて著しいものがある。

よつて、これを金銭に見積つた場合金五〇〇万円をもつて償われるべきである。

(7) 後遺症による逸失利益 金二二一万七、二四二円

原告幾代は、所謂パートタイム的職業であつたが、前記の如く本件事故前月平均三万一、四五四円の収入を得ていた。

然るに、後遺症のため、この労働に従事することも出来ず、将来における所得逸失の損害も大きい。

これを、一応向後七年間の影響と考え、現実の労働能力の著しい欠如より、右期間中の前記所得全額を、逸失利益とされるべきである。

よつて、この損害は、次のとおり算出されるべきである。

31,454×12×5.8743(ライプニツツ係数、7年間)=2,217,242

(五) 一部弁済とその充当

本件交通事故に対しては、自賠責保険から亡直良死亡に対し金一、〇〇〇万円、原告幾代の後遺症に対し金三七六万九、九四二円の支払があつたので、このうち金一、〇〇〇万円を原告ら三名にて各三分一相当である原告幾代金三三三万、三、三三四円、原告正一、同葉子各三三三万三、三三三円宛分配し、前記(一)、(二)および(三)の各人の合計額に充当し、又右三七六万九、九四二円を、前記(四)の(6)、(7)の損害合計額に充当した。

(六) 弁護士費用 合計金一六〇万円

もつて、以上の原告らの損害額を考えると、原告幾代は前記(一)、(二)、(三)、(四)、(五)の合計額金九八二万七、〇四三円、原告正一と同葉子は前記(二)、(三)、(五)の合計額各金三四三万三、一一二円となる。

よつて、本訴請求に必要な弁護士費用は、右の各一割相当額である原告幾代にて金一〇〇万円、原告正一、同葉子にて、各金三〇万円をもつて相当とされるべきである。

6  よつて、原告らは前記の各損害額につき、請求の趣旨記載の如く、遅延損害金を附してその支払を求めるものである。

二  請求の原因に対する認否

1  請求原因第1項の事実は不知。

2(一)  同第2項(一)の事実のうち、原告幾代が助手席に同乗していたとの事実は不知、その余の事実は認める。

(二)  同項(二)の事実は否認。

3  同第3項の事実のうち、亡直良の死亡、原告幾代が桐生市の高木病院に入院したとの事実は認め、その余の事実は不知。

4  同第4項の事実のうち、被告高城正義が直接の運転者であること、および被告大友運送株式会社が加害車両の所有者であることは認め、その余の事実は否認する。

5(一)  同第5項の事実のうち、(一)、(二)、(三)の事実はいずれも否認する。

(二)  同項(四)の事実は否認する。

(三)  同項(五)のうち、自賠責保険から亡直良死亡に対し、金一、〇〇〇万円、原告幾代に対し金三七六万九、九四二円の支払があつた事実は認め、その余の事実は不知。

(四)  同項(六)の事実は否認する。

6  同第6項は争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  (原告らの身分関係)

成立に争いのない甲第一号証によれば、原告森澤幾代(以下、原告幾代という。)は訴外亡森澤直良(以下、亡直良という。)の妻であり、原告森澤正一(以下、原告正一という。)は長男、原告森澤葉子(以下、原告葉子という。)は長女であることが認められる。

二  (事故の発生および原因)

1  昭和四九年四月一〇日午後九時五〇分ころ、亡直良が軽乗用自動車(八群と二一四五)(以下、亡直良車両という。)を運転して、群馬県新田郡笠懸村大字鹿九六六番地先の国道五〇号線を、桐生方面より前橋方面へ進行中、対向してきた被告高城正義運転の普通貨物自動車(埼一一あ三〇九三)(以下、被告車両という。)に衝突されたことは当事者間に争いがなく、証人林政明の証言、原告幾代本人尋問の結果によれば、右事故の際、原告幾代は右軽乗用車の助手席に同乗していたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  証人林政明の証言により真正な成立を認める甲第三号証、同証人の証言によれば、本件事故当時雨が相当降つていたが被告車両が前橋方面から現場付近に差しかかり、被告車両の前方を走行していた車両を追越すため反対車線に入り、追越して、自車線に戻る際スリツプして被告車両は右に回転しはじめたところへ折から反対車線を走行して来た亡直良車両の右前部に被告車両の右前部が衝突し、そのままさらに回転して反対車線の真中のあたりに前橋方向に右斜めに向いて停車したことが認められ、右認定をくつがえすに足りる証拠はない。右認定の事実によれば、本件事故の原因は被告高城が前行車両追越しの際、運転を誤り、反対車線上で自車を回転させた結果、対向して自車線内を進行して来た亡直良車両を避けることができなかつたことによるものと認めるのを相当とする。

三  (傷害の部位、態様)

成立に争いのない甲第八、第一二、第一三号証、被告幾代本人尋問の結果によれば、右事故により、亡直良は、頭部打撲、肋骨骨折などの重傷を負い昭和四九年四月一一日午前零時二五分死亡し、原告幾代は、右腎臓破裂、腸間膜損傷、全身打撲、顔面頭部切創などの傷害を受け昭和四九年四月一〇日から同年六月二六日まで桐生市の高木病院に入院し、退院後も通院加療していることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

四  (被告らの責任)

1  前記第2項(二)に認定の事実によれば、被告高城は被告車両の運転者として原告らの受けた損害を賠償しなければならない。

2(一)  証人永井賢司の証言により真正な成立を認める乙第三、第五号証、証人荒木浅枝、同大友幸雄、同永井賢司の証言によれば次のとおり認められる。

被告大友興業株式会社は昭和二八年に創立され、その後同社の運送部門を独立させて、被告大友運送株式会社とし、さらに自動車の整備関係については新たに関東自動車工業株式会社を設立した。右大友興業株式会社と関東自動車工業の代表取締役はいずれも大友恒夫であり、同人は被告大友運送株式会社の取締役を兼ねており、被告大友運送株式会社の専務取締役大友幸雄は右大友恒夫の甥であり、被告大友興業の取締役を兼ねている。被告大友興業と被告大友運送の本社事務所は、いずれも前橋市日吉町三丁目一二番一六号所在の同一建物の一階にあり、それぞれ六箇の事務用机を置いているが両者の境は衝立で区切られているに過ぎず、便所、更衣室、勝手および二箇の出入口をいずれも共通に使用している。

右事務所にある社長室は、大友恒夫が使用し、被告大友運送の代表取締役下田昭男は主として同社熊谷営業所に出勤していた。被告大友興業はブロツク製造販売業を営み、被告大友運送は被告大友興業の製造するブロツクの他一般貨物の運送にも当つている。

本件事故当時被告大友運送のトラツクは日吉町の本社に五台、熊谷営業所に三台あつたが、被告車両は熊谷営業所所属の車両で、当時故障のため前記関東自動車工業で修理し、日吉町本社構内の有蓋車庫内の南端に収納しておいたものである。右車両の鍵は被告大友運送の自動車運行管理者である前記大友幸雄が、他の車両の鍵と一緒に大友幸雄専用の机(大友運送の事務机としてまとめて置かれている六箇の机の北西の角の机)の抽出しに抽出し鍵をかけないまま保管してあつた。事故当日、会社の終了時間である午後五時以後午後六時頃まで当日の居残り当番であつた被告大友興業の事務員荒木浅枝が事務所北側の入口近くの机で仕事をしていたが、被告高城の出入りには気付かなかつた。

大友幸雄は当日午後五時過ぎに退社している。大友幸雄は事故の日の翌月である四月一一日の朝出勤後被告高城から直接事故について報告を受け、被告車両を点検した上、下田昭男と大友恒夫の双方に報告をした。その後二、三日して被告高城は行方不明となつた。被告高城は、被告大友興業のブロツク工場にブロツク製造工員として勤務していたものである。

以上のとおり認められ、右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

右認定の事実に成立に争いのない甲第五号証をあわせ考えると、被告高城は、平常は被告大友興業の乗用車で通勤していたものであるが、本件事故当日右の車が故障して使用できなかつたため、大友幸雄の机の抽出しから無断で被告車両の鍵を持ち出し、被告車両を運転して帰宅の途中本件事故を起したものと認めるのを相当とする。

(二)  ところで、原告らは、被告大友運送につき自賠法第三条により、被告大友興業につき民法第七一五条による各賠償責任を主張するのでこの点について判断すると、前記認定の事実によれば、被告大友運送と被告大友興業とは外形上別会社になつているけれども、被告大友運送は、被告大友興業の製造にかかるブロツクの運送に当るかたわら一般運送事業を営んでいるものであつて、被告大友運送の設立の事情、両社の事務所の形状、使用状況に照らしても、実質は双方共同して事業を執行していたものというを妨げない。右のような状況の下においては、被告高城と自動車の所有者たる被告大友運送の関係は雇傭関係に準ずる密接な関係にあつたものと認めるのを相当とし、偶々被告高城が上司に無断で被告大友運送の所有車両を運転したからといつて、自動車所有者のためにする運行でないと断言することは困難というべきであつて、同じ構内で両社の自動車が保管されている状況、および両社の実質的な共同的事業執行の状況から見て、客観的外形的には、自動車所有者のためにする運行というを妨げない。

右のごとき状況下においては、たとえ事故を生じた当該運行行為が、具体的には第三者の無断運転による場合であつても、右自動車所有者は「自己のために自動車を運行の用に供する者」というべく、当該運行行為により他人の生命又は身体を害したことによつて生じた損害を賠償する責に任ずべきものであるから(最高裁判所昭和三八年(オ)第九〇三号昭和三九年二月一一日第三小法廷判決、民集一八巻二号三一五頁参照)、被告大友運送は、自賠法第三条による責任を免れないものといわなければならない。

(三)  次に、民法第七一五条に規定する「事業ノ執行ニ付キ」というのは、必ずしも被用者がその担当する業務を適正に執行する場合だけを指すのでなく、広く被用者の行為の外形を捉えて客観的に観察したとき、使用者の事業、規模からしてそれが被用者の職務行為の範囲内に属するものと認められる場合で足りるものと解すべきところ、これを本件について見ると、被告高城は、本来被告大友興業の乗用車で帰宅すべきところ、偶々故障のため、被告大友運送の所有する被告車両を使用したというのであつて、両社の事業執行が密接な関係にあつたという前認定の事実関係の下においては、帰宅途中の被告高城の運転行為は、その職務の範囲内の行為と認められ、その結果惹起された本件事故による損害は被告大友興業の事業の執行について生じたものと解するのを相当とし、被用者である被告高城の本件不法行為につき、使用者である大友興業はその責任を負担すべきものである。

五  (損害)

1  亡直良の葬儀費用 金三〇万円

原告森澤幾代本人尋問の結果真正な成立を認める甲第一一号証、同本人尋問の結果によれば、原告幾代は亡直良の葬儀費用として金三〇万円を超える出捐をしたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。原告幾代の主張する金三〇万円は右出捐の範囲内であり、かつ、社会通念上相当な支出と認められるので、これを認容することとする。

2  亡直良の逸失利益 金一、一二九万九、三三五円

成立に争いのない甲第八号証原告森澤幾代本人尋問の結果真正な成立を認める甲第一〇号証、同本人尋問の結果によれば、亡直良は、死亡時満四一歳の健康な男子として、前橋市所在の日東ダンボール株式会社に勤務し昭和四八年四月から昭和四九年三月までの間の実績として年間給与(賞与を含む。)金一四一万七、三七八円を得ていたことが認められる。就労可能年数を二五年とし、生活費控除を二分の一として、ホフマン方式により年五分の中間利息を控除すると、亡直良の逸失利益は、金一二九万九、三三七円となり、原告らは、そのうち金一、一二九万九、三三五円を請求しているので、これを認容する。

(1,417,378円×15.944)×1/2=11,299,337円

原告ら三名は、亡直良の右逸失利益額を法定相続分に従い、各三七六万六、四四五円宛相続し、各同額の損害を受けたものと認める。

3  亡直良死亡による慰藉料 金八〇〇万円

亡直良の死亡により原告ら三名の受けた精神的苦痛を慰藉すべき金額は、原告幾代につき金三〇〇万円、原告正一、原告葉子につき各金二五〇万円を相当と認める。

4  原告幾代固有の損害

(一)  成立に争いのない甲第一二号証によれば原告幾代の後遺症状は脳波異常および右腎臓摘出による身体異常であつて七級であることが認められる。原告幾代の入通院状況は、前記第三項において認定のとおりである。

(二)  入通院に対する慰藉料 金一〇〇万円

前記認定の原告幾代の入通院の状況を考慮するとき、入通院に対する慰藉料は金一〇〇万円を相当と認める。

(三)  入通院期間中の逸失利益 金一六万五、〇〇〇円

原告幾代本人尋問の結果真正な成立を認める甲第一四号証、同本人尋問の結果によれば、原告幾代は、本件事故前、前橋市所在の林兼食品工業株式会社前橋工場に勤務し、月平均約三万三、〇〇〇円の収入を得ていたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。原告幾代の入通院の状況から見て、五か月間を稼働不可能な期間と認めることができるので、合計金一六万五、〇〇〇円を入通院期間中の逸失利益として認容する。

(四)  入院中の付添看護費 金一一万七、〇〇〇円

原告幾代本人尋問の結果によれば、原告幾代の入院期間七八日間、同人の母と弟が付添看護に当つたことが認められ右付添が必要やむを得ないものであつたことを認めることができる。このように身内の者が看護した場合現実の出捐がなくとも職業付添人に支払われる看護料に準じて看護料相当額を事故による損害として評価すべく、一日当り金二、〇〇〇円を損害額とする原告の主張のうち一日当り金一、五〇〇円を相当というべきである。よつて、原告幾代は、付添料相当額として合計金一一万七、〇〇〇円の損害をこうむつたものということができる。

(五)  入院中雑費 金二万三、四〇〇円

入院中の雑費は一日当り金三〇〇円を相当とし、原告幾代は、合計金二万三、四〇〇円の損害をこうむつたものと認める。

(六)  後遺症による慰藉料 金三〇〇万円

前記認定の原告幾代の後遺症により原告幾代の受けた精神的損害を慰藉すべき金額は、金三〇〇万円をもつて相当と認める。

(七)  後遺症による逸失利益 金一七二万八、二六二円

前記認定の後遺症により原告幾代が労働に従事することのできない期間は五年間をもつて相当と認めるべきところ、同じく前記認定のとおり、原告幾代は、本件事故前月平均三万三、〇〇〇円の収入を得ていたものであるから、右期間中の右所得金額についてホフマン方式により年五分の中間利息を控除して計算すると、原告幾代のこうむつた損害の現価は金一七二万八、二六二円(円未満切捨て)となる。

33,000×12×4.3643=1,728,262.8円

5  一部弁済とその充当

本件交通事故に対して、自賠責保険から亡直良死亡に対し金一、〇〇〇万円、原告幾代の後遺症に対し金三七六万九、九四二円の支払があつたことについては当事者間に争いがない。そこで、このうち金一、〇〇〇万円を原告ら三名にて各三分の一相当である原告幾代につき金三三三万三、三三四円、原告正一および原告葉子につき金三三三万三、三三三円宛分配して、前記1、2、3の各人の合計額に充当すると、残額は原告幾代につき金三七三万三、一一一円、原告正一および原告葉子は各金二九三万三、一一二円となる。また右金三七六万九、九四二円を前記4の(六)、(七)の損害合計額に充当すると原告幾代固有の損害額の残額は金二二六万三、七二〇円となる。

6  弁護士費用 合計金一二〇万円

以上認定の原告らの損害額合計は、原告幾代につき金五九九万六、八三一円、原告正一および原告葉子は各金二九三万三、一一二円となる。よつて、本訴請求に必要な弁護士費用は、右の各一割相当額である原告幾代につき金六〇万円、原告正一および原告葉子につき各金三〇万円をもつて相当と認め、右は被告らの不当な抗争により原告らが出捐を余儀なくされたものであるから、原告らのこうむつた損害として認容する。

六  結論

以上の次第であるから、原告らの本訴請求のうち被告らが連帯して原告幾代に対し金六五九万六、八三一円、原告正一および原告葉子に対し各金三二三万三、一一二円およびこれらに対する訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和五〇年四月一一日(被告高城については、送達の効力の発生の日の翌日である昭和五〇年一一月一二日)から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるので認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき、同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 園部逸夫)

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